あかり&あきら対談「トランスジェンダーが直面するルッキズムと不能感」

初出:2023年2月12日

https://ichbleibemitdir.wixsite.com/trans/post/lookism_akaritoakira

 

今回、五月あかりと周司あきらの二人で話し合うのは、トランスジェンダーが直面する(トランス女性/MtFの)ルッキズムと、(トランス男性/FtMの)能力の問題です。

 

A:五月あかり(出生時に男性を割り当てられたが、現在は女性に埋もれて生きている。トランスジェンダー) 

B:周司あきら(出生時に女性を割り当てられたが、現在は男性をやっている。トランス男性)

 

 

トランス女性(MtF)のルッキズム

 

A:最近さ、ふたりの往復書簡でルッキズムの話してたよね。(※往復書簡の出版準備中です→『埋没した世界』という本になりました)

 

B:したね。

 

A:あれでさ、あなたと話してて、やっぱりMtFFtMで、ルッキズムとの付き合い方が全然違うって、分かったんだよね。

 

B:悲しいけど認めざるを得ない。

 

A:うんうん。やっぱりMtFにとって「見た目」は大きな悩みだからMtFの仲間たちが「美」についてとても厳しいジャッジを恐れているのは、感じるよね。

 

B:手術の話をしてるときも、美容整形を「性別移行のために」必要としている人がいて、それはFtMだと聞かないね。FtMの手術の話だと陰茎形成は複数回の手術があるし、大変だけど、性別移行のために胸筋や顔面を何度も手術するっていうのは全然聞かない。

 

A:確かにね。わたしはやったことないけど、髭の脱毛とか、顔面女性化手術(FFS)とかしてるMtFはかなりいる。

 

B:リアルなMtFの知り合いだと、女ホル(=女性ホルモン投与)と性器の手術以外になにかしらの手術をやってる人の方が多いわ。

 

A:それはつまり豊胸とか?ってこと?

 

B:豊胸と二重瞼の手術と、喉ぼとけの手術と、顔面の手術と・・・それぞれ別の人だけど。

 

A:すごいね、みんな。

 

B:すごいよね。

 

A:喉ぼとけあるよね、わたしは喉ぼとけ削ったことないけど、温泉とか入ってるときに一番気になるのは喉ぼとけかな。ゆっくりお湯に浸かって上を向いたときに、ちょっと出ちゃう気がするの。

 

B:全然気にならないよ。私のシス女性の友だち、私よりも喉ぼとけ出てるけど全然気にならない。

 

A:いや、分かるよ。でも気になるんだよね。出っ張ってるの。

 

B:まあ分かるよ。FtM股間もっこりがないのを気にしてるみたいに、誰も気にしてなくても本人は気になるよね。

 

A:ははは。股間もっこりとか、誰も見てないよ。笑

 

B:(笑)

 

「美しさ」以前のハードル

 

A:話がルッキズムに戻るんだけど、あきらさんも言うように、やっぱり「見た目」を変えること、それも今の女性基準で「美しく」なるように見た目を変えていくっていうプロセスが、MtFの性別移行にとってすごい重みを持ってしまっていると思うの。

 

B:女性全体がそうだし、その「女性」基準に至るまでも大変ってことだよね。

 

A:そうそう。外から見たら、MtFの私たちがこんなに「見た目」にこだわったり、見た目に関わる手術をしたりしてるのって、「美」の基準を一生懸命追いかけてるように見えると思うんだけど、なんかそういうことじゃなくて、まず私たちは「女性」として見なされないといけない。その後に初めて、「美しい女性」になるか「美しくない女性」になるかの二択が現れるの。

 

B:うんうんうんうん。言ってることは分かる。

 

A:ありがとう。そう、だから見た目の手術をしてるMtFがやってることって、シス女性の人たちの「綺麗になりたい」とか「自分が醜く感じる」とかの話とは、やっぱり一旦別物だと思うんだよ。

 

B:そうね、シス女性の悩みって「女性であること」は疑いなくクリアできてるもんね。いいなぁー。

 

A:ほんとにそう。トランス女性は、まずその「女性であること」をクリアするために「美しく」なきゃいけない。悲しい現実だけど、トランス女性の「パス」のためのテクニックとして、一番大事だって言われてるのは「髪の毛」なの。髪の毛がぼさぼさだと、「男」だって思われちゃうから、まずは髪の毛を延ばして、綺麗につやつやにしましょうって、どこでも言われてるんだよ。

 

B:なんかすげえ深刻だな・・・。

 

A:ごめんね深刻な話をして。

 

B:男性はむしろ、髪がなかったらパスしやすいから・・・。とはいえFtM的な人だと、髪が無いと骨格でばれる可能性があるから、かえって長髪の方が男性としてパスしやすい時期はFtMにあるのかも。

 

A:そうなんだ!骨格・・・?

 

B:なんか、男性ホルモンやってると顔がシャープに角ばってくるわけ。女ホルの影響がある時期は顔が柔らかく丸々しがちで、そのせいで男性としてパスしにくいことがある。だから、顔の輪郭が男性ホルモンの影響で変わるまでは、髪を短くして顔の形が見えやすい状態は避けて、髪を伸ばしている方が男性としてパスできることがあるんだよ。

 

A:へ~~~~!そうなんだ!

 

B:ルッキズムの話で元も子のない話をすると、外見を放置してる方が「男」に見えるじゃん。だからトランス男性は「何もしてない」方がパスできるんじゃないか説

 

A:すごい説が登場した(笑)。さっきのトランス女性の髪形の話も、とにかく「ケアしましょう」って言われるから、確かにそうなのかもね。身体や見た目をケアすること自体が、女性性とつながっていて、放置することが男性性なのかもね。

 

B:以前あかりさんが、「顏にあざのある女性」とトランス女性の関係性について話してたけど、両者ともにまず「ふつうの女性」枠になってから、「美しい女性」か「美しくない女性」が分かれるってことでしょ?だからすでに「ふつうの女性」と見なされてる人とは立ち位置が違うって話してたよね。あれは面白かった。

 

A:はいはい。私が紹介してもらって読んだ本に出てくる「顏にあざのある女性」の話だよね。すごくざっくりとした印象になってしまうんだけど、ほんとにあなたがまとめてくれた通りで、「顏にあざのある女性」は、自分が「美しくない」こと以前に「普通の女性の顏」でないことに悩んでいて、それで、レーザー治療をしたり、メイクを頑張ったりする人もいるんだけど、それってMtFの悩みにとても近い気がしたんだよね。まずは「女性の顏」の枠に入れてもらわなきゃいけなくて、そこから初めて「美しい/美しくない」のルッキズムが出てくるの。

 

B:しょうもない例だけど、「ブス!」って侮蔑的に「ふつうの女性」に投げつけることは可能かもしれないけど、「性別がどっちつかずで怪しい人」って見なされたトランス女性的な人には、女性に投げつけられるような「ブス」っていうジャッジすらされない。そういうことだよね?

 

A:悲しいけど、ほんとにそういうこと。パスで悩んでいて、怪しまれたり、不審がられたりするトランスの女性は、たくさんいる。わたしも辛い気持ち、分かる。そういうときに私たちに向けられるのは、「ブス=醜い=美しくない」ではなくて、「女ではない」なんだよね。

 

B:つらっ・・・。

 

A:あんまりこうして経験を重ねるのはいけない気もするんだけど、「顏にあざのある女性」も、同じじゃないかなって思ったの。「モンスター」みたいにじろじろ見られて、人ごみに埋もれられないっていう悩みを語っている人もインタビューも出てきて、それってすごくトランス女性的な悩みだし、きっとそうした女性たちも、女性一般に投げかけられがちな「ブス」的な美醜のジャッジの手前で見た目に悩んでるんじゃないかなって。

 

トランス男性(FtM)は何に悩むのか?

 

B:FtM側でそういうルッキズムの話を聞かないから新鮮だ。

 

A:そうだよね!あんまり聞いたことない。いっつも、トランスのための手術とかが美容整形と同じだとか、悪口や批判をいうフェミニストがいるけど、なんか違うんだよね。根本的に。「美しくなりたい」っていう、もしかしたら社会のセクシスト的なルッキズムによって思わされてる欲求とは別に、「ふつうの見た目になりたい」んだよ。

 

B:ふむふむ。

 

A:FtMだと、こういう「ふつうになりたい」ってどうなるの?

 

B:FtMだと、見た目よりも「機能障害」に近いかもしれない

 

A:ほうほう!例えば?

 

B:発育不全で背の低い男性とか、不妊の男性とか、ペニスの欠けた男性とか。

 

A:なるほど。FtMだ。

 

B:機能が足りてないんじゃないかって、とくに生殖機能のことは思う。立ちションできなければ、精子ももってないわけでしょ。

 

B:うんうん。MtFでも「妊娠できない」って悩みを持つ人がいるにはいるけど、なんかあんまり一般的じゃないし、やっぱり身体の「機能」がないという話よりも、表に出てる見た目の問題の方が大きくなりがちかなぁ。

 

B:ちょっと訂正するわ。生殖機能というよりは、なんか(FtMにとっての問題は)「性的衝動の持て余し」とか、そういう方面かな。そこで「無能・不能の男性」になる。

 

A:ほうー。持て余してる?

 

B:あかりさんは性欲がないしAセクシャルだからますます伝わらないかもしれないけど・・・。

 

A:射精ができないってこと?

 

B:おお端的に言ってびっくりしたー! でもそうなんじゃない? あと機能障害とは別なんだけど、身体のことじゃなくて「男らしさ」の規範について言うと、そもそもトランス男性だと知ってる人、例えば親とか恋人とかがいたとして、シス男性なら求められる男らしさが期待されてなかったりする。あるいは、もともと女性同然に生活させられたりトランス固有の困難があったりするなかで、治療しないといけなかったり経済的に厳しかったり、学歴でドロップアウトしたりしてるから、「能力が足りていない」っていうのはトランス男性のなかで感じるんじゃないかな。

 

A:そっか。言われてみたら「男らしさ」って、能力が「ある」ってことと結びついてる気がしてきた。

 

B:おまけに「男らしさ」は公的な能力と結びついてるから、なんか表で活躍するのにたるだけの体格とか学力とか経済力とか、トランス男性の生育環境だと獲得できていない確率が高いわけ。それは能力の欠如だと思う。

 

A:なるほどね!「男らしさ」に求められるいろんな能力を持てない環境をトランス男性は生きさせられていて、だから「できない」っていうのがトランス男性が「男性」になるときにハードルになるってことね。

 

B:まあそうね。ルッキズムの問題ではないんだけど、他のところで「足りてない」と感じさせられるね。

 

A:そうかぁ。お金がないとか、仕事がないとか、そういうのってトランス女性にも共通の問題なんだけど、トランス女性の場合はその「できなさ」が「女性ではない」というハードルとはあんまり結びついてない気がするのは確か。

 

B:うーーーん、なんかトランス男性の場合「できなさ」によって「男性ではない」と結びつくわけではなくて、「男らしさの不足した男性」になるんじゃないかな。たぶん男性になること自体は、トランス女性が経る性別移行の壁よりはまだまし…な可能性がある。あんまり化け物扱いされないしね。

 

A:そうか、わたしがちょっと誤解してたかも。あきらさんの言う「できなさ」は、あくまでも「男性ではあるが、男らしさがない」ことと結びついてて、それがすぐさま「男ではない」にはならないってことね。そう言われてみたら、トランス女性に課せられる「見た目」のハードルは、あなたの言うように「モンスター」扱いされるか否か、つまり「女性」として存在できるか否か、という問題と結びついていて、ちょっと別の水準かも。

 

B:手前の問題ってことね。

 

A:そうだねぇ。手前の問題。

 

B:聞けば聞くほどつらいね。

 

A:そうね、でももっとつらいのは、それが理解されづらいことかな。トランス女性がそういう「手前の問題」で悩まないといけないのに、シス女性のとくにフェミニストの人たちからは「女らしさに拘ってる」とか「性別移行のための手術は美容整形と同じ」とか、勘違いして批判されるんだよね。なんか、いいよね、って思う。

 

B:そうね、どれだけブサイクだったとしても「あんた、すでに女じゃないか!」って言い返したくなるでしょ。ちなみに私もね、包茎で悩んでるシス男性の話を聞くと「あんたすでにチンコあるし、男じゃないか!」って言い返したくなったことあるよ。

 

A:ははははは(笑)。まあ、それと同じだね。最初っから「男性」や「女性」の枠に収まっていて、どれだけ自分の身体が変わっても、見た目が変わっても、その「男性」「女性」の枠からは絶対にはみ出す心配のない人たちとさ、私たちみたいに、まずはその「枠」に入ろうと必死になってる人たちは、全然ちがうじゃんね。羨ましくもなるよ。

 

 

お国柄も関係あるらしい

 

B:これまた別件だけど、トランスジェンダーの移行後って、その国における平均から外れることもあるから、ちょっとナショナリティの外側に置かれてる感じもする。トランス女性は「背の高い女性」として欧米圏の女性と間違われる、とか。

 

A:はいはい。わたしも日本人のシス女性の平均よりは少し背が高いし、足が長く見える服とか来てると、「外国の方ですか?」とか「どこの国からいらしたの?」とか聞かれることがあるわ。この前はあなたと八百屋さんに行っていて聞かれたね。

 

B:これはトランス男性の話だけど、実年齢よりも若く見られる件! 男ホルががんがん効いてきておじさんに見えると話はまた別だけど、そうなる前はやたら若く見なされることがあるみたいですね。

 

A:それは世界共通かもね。

 

B:そうそうそうそう。なんか英語圏の人も同じ話してて。私からしたら、アメリカで白人としてやってきたトランス男性はアジア圏よりも年上に見えてるから、同じような悩みを抱えてるとは思ってなくて、笑っちゃったよ。

 

A:ははは。そうだよね、なんか白人男性って年上?に見えるよね。

 

B:白人の女性も男性もそうだよね。

 

A:なるほどね、ちなみにわたしは性別移行するかなり前にアメリカに行って、白人男性に「若い女性」だと思われてけっこう怖い思いをしたことがあるわ。

 

B:はぁ~。きゃしゃだから、その時からすでに女性みたいに見えてたってこと?

 

A:そうね、何が理由かははっきり分からないけど、身長が高いわけでもなく、脂肪もないし筋肉もないし、アジア人だし、中性的なコートを着てはいたかな。

 

B:ああ、とくにアメリカの規範的な男性像がかなりマッチョなものになってるって聞いたから、関係あるかもね。マッチョじゃないから男じゃない、みたいな。私、逆の話もしていいかな?

 

A:いいよ。

 

B:私が日本で男性社員として働いていたとき、バーに入ってアラブ系の男性たちに「男の子?女の子?」って聞かれたんだ。彼らの基準からしたら、体毛がないから、男性だと分からなかったんだと思う。彼ら全員、毛がもじゃもじゃだったし。

 

A:なるほどね。

 

B:あれくらいの私で性別が分からないってことは、日本人男性のけっこう多くがパッと見て「男」とは見なされないことになるなーと思った。

 

A:はは、そうだね。逆に、MtF系だと、背の高い欧米人に混じったらパスしやすくなったりもするんだろうね。なんか、性別の見た目の話って、人種とか国とかとくっついてて、嫌な感じ。

 

B:うん、日本でパス度で悩んでる人たちは、欧米圏なら余裕でクリアできそうだなと思ったことはある。目鼻立ちがくっくりしてる女性になれるから。

 

A:そうかぁ。そうだよね。でも結局は、とくに女性サイドだと、「どんな見た目なら女性に許されているか」っていう外見ジャッジセクシズムがトランス女性に深刻に直撃してるのは世界共通だから、一刻も早くなくなって欲しいところ。

 

B:ちょっと関係ないけど、日本の特例法もそうだよね。

 

A:どういうこと?

 

B:(戸籍性別を女性に適合させるには)トランス女性は精巣をとって生殖機能を失うだけじゃなくて、きちんとペニスを切りなさい!っていう女性への命令だよねー。とくに「玉なし竿あり」のニューハーフには戸籍を変更させない、という強い意志を感じる

 

A:なるほど、考えたことなかった!確かに「外観要件」ってめっちゃ気持ち悪いよね。あれ結局は「ペニス切れ」要件でしかないし。FtMは関係ないよね?

 

B:そう。そろそろ終えますか?

 

A:そうね、最後がペニスの話になってしまったけど、やっぱりあの要件は、妊娠能力をなくさないといけないっていう要件とは別に、女性のあるべき身体について国がルールを決めてるっていう、広い意味での「ルッキズム」なんだと思う。外観って、外見だし。おつかれさま~。