あかり&あきら対談「性別変更するための特例法ってどう思う?」

初出:2023年1月6日

https://ichbleibemitdir.wixsite.com/trans/post/gid-akaritoakira

 

今回、五月あかりと周司あきらの二人で話し合うのは、性別に違和がある人々(トランスジェンダー)が戸籍上の性別変更をするための法律について。

 

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

 

家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。

 

 十八歳以上であること。(年齢要件)

 現に婚姻をしていないこと。(非婚要件)

 現に未成年の子がいないこと。(未成年の子なし要件)

 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。(不妊化要件/手術要件)

 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。(外観要件/手術要件)

 

 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。

 

 

A:あかり(出生時に男性を割り当てられたが、現在は女性に埋もれて生きている。トランスジェンダー) 

B:あきら(出生時に女性を割り当てられたが、現在は男性をやっている。トランス男性)

 

対談、スタート!

 

A:新書(=トランスジェンダーの入門書が出ます!)の執筆お疲れさま。特例法についても書いたの?

 

B:ありがとう。うん。特例法についての日本の認識しっちゃかめっちゃかだから、みんなに読んでもらえると嬉しいな。

 

A:そうだよね。わたしもあなたからいろいろ聞いて、日本の法律がすごい遅れてるのにみんなあれが当たり前だって思ってるギャップにびっくりした。

 

B:その感覚は分かる。っていうか、初めて戸籍の性別変更ができるって知った時は「へえ、変えられるんだ」って思っただけで、内容には疑問を感じなかったから。いつからおかしいって思ってた?

 

A:わたしはずっと変だなと思ってたよ。というか、わたしは女性になりたいとはあんまり昔は思ってなかったから、特例法は自分には関係ないかなと思ってた。でも、いろいろあって女性になってしまったら、急に身分証だけ「男」って書いてあってすごい不便で、なんか法律が厳しすぎる気がしてきて…...。

 

B:そうね、おかしいって実感を持って分かるのは、生活上の性別が移行してからだな。明らかに不便だから。名前だけ改名できるから先に名前だけ男性名になって、戸籍だけは女性で維持されてて、職場の社長に「名前を変えました」って言ったら、戸籍上の性別も変わったんじゃないの?って、ちぐはぐな状態に混乱してたよ。

 

A:あー、あるあるだよね。名前だけ変えれるの知らない人いるし。

 

B:戸籍変更要件の内容の話する?

 

A:その前に、あなたの話わかるわ。なんか、なんとかして反対側の性別になりたいって最初に思ってる人たちからしたら、特例法は「ありがたいもの」なんだと思うんだけど、最初から反対側に行きたいって思ってたわけではないのに、ずるずる性別移行しちゃって反対側に同化しちゃった人からすると、「なんでこんなに特例法厳しいの?」ってなるかな。生活と関係ない要件が多いもん。ごめん、要件の話しようか。

 

B:結論から言うと、全部変だよね。5要件というか、(医師の診断も含めて)6要件というか。

 

A:うんうん、意味わかんない。誰が考えたのか知らないけど。

 

B:なんか、世界での性別承認法をトランス女性が主導で動いて作ってきたって聞くけど、そりゃトランス男性側が裁判起こして「変えてくれ」って言うのは当たり前だよね。今の日本の特例法だと、なんならトランス男性はノンホル・ノンオペでも要件を満たすのでは?って私は解釈してるよ。実際には難しくても、原理的にはそういうことじゃん。

 

A:そうだよね。不妊化要件は閉経済みならクリアして、外観要件は別にトランス男性にとってあってないようなものだからね。

 

B:そう。もし戸籍上の男性と結婚して出産していたとしても、その男性と離婚して、子が18歳以上(成人済み)なら、条件は全部クリアするし。

 

A:子どもを産んだことがある男性ってことだよね。すでにいるよね、いっぱい。

 

B:そうそう、知ってるよ。しかもトランスヘイターは、トランス女性への批判として「ペニスのある法的女性が存在してしまう」っていうのを繰り出すけど、その状態ってトランス男性側ですでに可能になってるんだよね。

 

A:どういうこと?

 

B:つまりね、戸籍変更はしない/できないトランス男性で、でもどんどん手術そのものは進めていって、子宮と卵巣もとって、陰茎形成手術もできるからさ、それは法的女性のままでできるんだよね。つまり法的女性でペニスがあるトランス男性が生まれるってこと。

 

A:なるほどね。ペニスのある法的女性はすでに日本にも存在してるかもしれないってことね。面白い。

 

B:トランス男性はいつも不可視化されてますから。ははは(乾いた笑い)

 

A:特例法に戻るんだけど、日本の特例法がMtF=トランス女性目線で作られてるってあきらさんが言ってるのは、ほんとにそうだと思うよ。外観要件だって、ようはペニスを切れって言ってるだけで、めっちゃMtF用の条件だもんね。不妊化要件もそうじゃない?

 

B:うん。ふだん他人の内臓とか気にしてない奴らがトランス男性に子宮と卵巣をとれっておかしな話じゃん。こういうとトランスの当事者の中から「したいから手術してるんです」って声が聞こえてくるんだけど、あなたが手術したいかどうかと、属性全体に手術を課すかどうかは全く別の問題だから混合しないでねって思う。

 

A:それはほんとにそうだよね。手術したい人がすればいいっていうのは誰も否定してないのに、したくない人まで含めて手術を強制するルールになってて、それって「トランスジェンダー」っていう集団全体に強制されてるってことなのにね。てか、そういう「手術したいからしてます」って言っている人、だいたいMtFじゃない?

 

B:それも思うね。FtMで手術したいって言ったら「胸オペしたい」が来がちだから、真っ先に子宮と卵巣をとるのはそう多くはないんじゃないかな。

 

A:そうだよね。胸オペは特例法の条件とは関係ないもんね。で、手術要件の撤廃になぜだか反対してるMtFがいっぱいいて、FtMの足を引っ張ってる。迷惑な話だよね。MtFの人が、ペニスを切りたいとか、金玉を取りたいとか、そういう願いを持つのは分かるけど、FtM側にそのまま置き換えられないもんね。

 

B:というか、手術を望んでるトランスの当事者も「手術をしたい」のであって、「戸籍を変えたいがために手術をしているわけではない」はずだよね。ということは、手術と戸籍変更の要件が結びついていること自体、そういう手術を望んでいる人だっておかしいと思ってないとおかしいよね。だって、自分が手術するペースを法に縛られてるようなもんだぜ。「したいときにする」っていうのがかき乱されている。手術をしなくても戸籍変更できるなら、手術をしたい人だって手術する前に戸籍はとっとと変えてるはずだし。

 

A:ほんとにそう。自分にとって正しくない性別で一生懸命働いて、やっと手術のお金貯めて、戸籍変えてってする人は多いけど、最初に手術しなくても戸籍を変えれたら、もっと自分らしく安全に働けて、手術のためのお金だってもっと早く貯められるかもしれないもんね。

 

B:それもそうだし、手術要件がない国に生まれていたら、当事者の方から改めて手術要件を設けろってわざわざ要求しないでしょ。つまり日本で置かれている状況を当たり前だと思わされてるからであって、本心から「戸籍変更するためには手術要件を設けてくれないと嫌だ」って思ってる人なんていないと思うよ。

 

A:それも否定できない。とにかく現状の法律をありがたく思ってる「優等生」でいることが唯一の生き残りの方法だって信じるだけで、海外の法律が正しくないとか、そこまで考えてないと思うよ。2003年に特例法ができたときに手術要件が入ってなかったとして、そういう人たちが「手術要件を入れろー」って運動してたとは思えないもん。

 

B:もう少し手術要件の話する?

 

A:そうだね。やっぱり話が戻っちゃうけど、「真の性同一性障害者なら、ペニスや金玉はとりたくなるに違いない、だから不妊手術を望む人だけが戸籍を変えればいいのだー!」って山本蘭さんとか言ってたわけじゃん?で、それで誰が一番迷惑してるかって、FtMの人たちじゃん。あの辺のMtFの人たちが不妊化=手術要件とか入れたせいで、そこまで興味のない子宮や卵巣をとらないといけなくなって、今だってFtMの人たちが裁判してる。

 

B:まあそうね。

 

A:MtF界隈は恥じるべきだと思うわ。もちろん、MtF系の人の中にも、手術を望まない人も、手術ができない人もいるし。そういう人たちを置き去りにして、世間に迎合して変な条件を入れたままにしてきたのは、罪が重いと思う。

 

B:それにリアルな話をすると、私がこれまで会ってきたトランス女性(MtF)の人たちも、ホルモンもオペもしてなくても女性としての生活実態のある人たちはいて、それで「戸籍は男性です」って言っても、その方が身分証として機能してなかったよ。

 

A:そうなんだよね!そうそう。生活の実態と、戸籍変更のルールが関係なさすぎて、それがなによりもダメだと思う。わたしも未ホル未オペでパスしてた時期があったけど、単純に「書類だけが変」になるんだよ。

 

B:シスの人たちは気づいてないかもしれないけど「書類上の性別」っていうものが存在するんだよ。トランスからしたら、実態とは無関係な空想上のもの、みたいな位置づけかな。

 

A:はは(笑)。自分が家でやってるオンラインゲームの主人公でどっちの性別を割り当てられるかと、現実の生活は関係ないのに、なんかそっちのゲームの世界の性別が勝手に身分証に書かれちゃってて、困っちゃうみたいな感じ。

 

B:他の要件の話もしとく?

 

A:全部いらないからなぁ……。どれの話する?とりあえず非婚要件は問答無用でいらないよね。さっさと同性婚できるようにしろって話。

 

B:さっさと同性婚できるようにしろーって話だし、そんなにお国が「家族を大事にしなさい」というのなら、「(すでに結婚しているトランスの人に対して)離婚してパートナーシップを結べ」とかやっかいな手続きを入れないで欲しいですね。

 

A:ほんとそう。結婚してるカップルがいて、一方が戸籍の性別を変えようとしたら強制的に離婚させられるんだもんね。なんだよ、お前たち(自民党)は家族が好きなんじゃないのかって思うよ。家族を壊してるじゃんって。法的な問題だけどさ。

 

B:家族が大事だと言えば、「未成年の子がいない」って要件も意味が分からないよね。

 

A:あれ、日本にしかないんでしょ?なんなの?

 

B:ウクライナにもあったけどなくなったから、日本にしかないんじゃないかな。

 

A:何を恐れてるんだろうね。

 

B:子どもの福祉のために要件を設けましたって話で、父親の性別が女になったり母親の性別が男になったりしたらだめって言うけど、生活実態がとっくに変わってるのに戸籍だけ変えられない状態。むしろ生活が成り立たなくて、自民党が大事にしてる子どもの福祉がぶち壊れるんじゃないの?

 

A:ほんとそう。親が戸籍を変えられなくて、社会的に困ってしまって、それで困るのは子どもだもんね。それに、子ども目線からしたら自分がいるせいで親が苦しんでる姿を見せられるんだから、子どもの健康にも悪くない?

 

B:明らかに無駄だ。あともう「性同一性障害」使われなくなったけど……。

 

A:そうだよね、法律どうするんだろう?名前だけ変えるのかな?それも無理じゃない?だって「性同一性障害」っていう「病気」の人のための特例だったんだから、「性別不合」や「性別違和」が建前上は「病気」ってカテゴリーじゃなくなっちゃった以上、法律そのものの意味づけも変わっちゃうんじゃない?

 

B:そう思うよ。トランスの当事者のなかには「脱病理化」したことを「脱医療化」と勘違いしてる人もいるけど、二つは違うんだから、医療は求め続ければいいじゃんね。

 

A:そうだよ。誰も否定してないし、トランスのための医療、もっと進歩して欲しいし、ちゃんとしてほしいよ。わたしだって。話戻るけど、お医者さんに「あなたは性同一性障害ですね」とか「あなたは性別不合ですね」とか診断してもらわないと戸籍の性別を変えられないって、マジでなんなの、とは思ってるよ。関係ないじゃん。医者。

 

B:他の医療を必要とする時に、過去の経験とか聞かれないのに、トランスジェンダーになると根掘り葉掘り話さないといけない。

 

A:GID性同一性障害)のガイドラインね。自分史とかわたしも書いたよ。ほんと無駄。ホルモンと関係ないし。それに、戸籍変更とも関係ない。実態が変わっちゃってるから戸籍を変えないといけないのに、何を今さらお医者さんに心のなかを診断してもらう必要があるわけ?

 

B:あかりさんはそうだよね。私みたいに(ジェンダークリニックに通い出した当初、)社会的な性別を移行してなかった人からしても、治療を始めることが第一の目的なので、医者に性的指向はどうだったとか、どんなセックスをしたかとか、プライベートな話を語る必要はゼロだね。ホルモンを打つか打たないか、それが問題だ。それに私の場合は、ホルモンを打つことは決めてたので、単に処方してくれればOKだった。

 

A:ふんふん。ホルモン治療のための診断もいらないって話だよね。

 

B:つまり特例法の条件は全部いらないね。終わり。

 

A:もう~~~これからどうなっちゃうの~~?