【新聞報道比較】10月25日最高裁による不妊化要件違憲判決

(初出:2023年10月26日)
https://ichbleibemitdir.wixsite.com/trans/post/newspapers_gid1025

 

2023年10月25日、最高裁大法廷が「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法)の第3条4号の、不妊化(生殖不能)要件へ違憲判決を出しました。裁判官15名全員一致の判断でした。これまでの裁判に関わってきた皆さま、本当にお疲れ様でした。

 

5号の外観要件は差し戻しのため、申立人の性別変更は叶っていないままですが、いずれ同じ理由で5号も違憲となるのではないでしょうか。……それまで辛抱は続きます。

 

判決→

令和2年(ク)第993号 性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄 却決定に対する特別抗告事件

 

令和5年10月25日 大法廷決定

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/446/092446_hanrei.pdf

 

さて、25日の判決を受けた2023年10月26日(木)の朝刊を読み比べてみました。朝日新聞東京新聞毎日新聞日本経済新聞、読売新聞、産経新聞の6社。最高裁が法令などを違憲と判断するのは戦後12例目というレア中のレアなので、どこも1面トップです。

個人的に良いと思ったものから挙げていき、簡単なコメントを書いていくことにします。下にいくほど差別的な内容が増えますので、閲覧注意です。

 
 
 

朝日新聞

 

1、2、12、28、30、31面に記載あり。

 

2面に「トランスジェンダーをめぐる主な流れ」の年表があり、28面の意見要旨の下に特例法制定時の様子まで載っているのはありがたいですね。特例法の議員立法に携わった南野知恵子参院議員(当時)や、ロビイング活動をしていた上川あやさん、野宮亜紀さんのコメントまで。

 

30面には「安全な手術体制整備 課題」の見出しで、GID学会理事長の中塚幹也さんによる好意的評価、「手術を希望する人が手術を受けやすい環境整備を整える必要」にも言及。

 

31面の高井ゆと里さんのコメントでは、国家が医療措置を通じた不妊化を一律に強いることが「性と生殖に関する権利と健康(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」の侵害であり、優生思想の反映である、と指摘されています。同じく31面には、トランス女性とトランス男性の夫婦の手術時の回想や、中学3年生の時に家族にカミングアウトしたトランス男性の話も。

 

東京新聞

 

1、2、5、23面に記載あり。

 

1面の見出しは「生殖不能要件「違憲」」とあり、しっかり4号を生殖不能要件と指示したのは良いと思いました。5面の社説では「人権重視した新法こそ」の見出しで、「もはや、特例法自体を廃止すべきではないか」と次の展望を示しました。

 

毎日新聞

 

1、3、5面に記載あり。

 

5面の社説では同性婚の法制化とあわせて「LGBTQなど性的少数者の尊厳と権利が守られる社会の実現」を語るのは良いのですが、3面にわざわざ「自民内 法改正慎重論」として「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」に文字が割かれていて台無しです。もし「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性」を語るのであれば、トランスジェンダーの法的身分を侵害し続けるのではなくて、自民党の議員が世襲制をやめて約半数を女性議員にするよう仕組みを変えるなり、オリンピックをやめればいいんじゃないですかね。

 

日本経済新聞

 

1、47面に記載あり。

 

最高裁の判決文が言い訳じみているのがまず悪いのでしょうけれど、「医学の進展」と「性同一性障害の人に対する理解の広がり」によって2019年の第2小法廷で出した合憲が今回違憲になったかのような記述に重きが置かれるのはバランスを欠いています。

 

おおもとを辿れば、最高裁が2019年の時点で人権侵害を放置して合憲を出してしまっていたわけですし、2003年の特例法制定時でも自民党保守派の機嫌を伺って人権侵害がまかり通ってきたわけなので、司法・立法が反省もせずに「世間が変わったから違憲ということで〜」みたいな逃げっぷりなのがおかしいです。日本経済新聞がそうした言い訳に文字数を割く必要はないと思います。そして、両論併記のように「公衆浴場やトイレなどの安全性が脅かされる」という反対意見を記載する必要もないです。

 

【読売新聞】

 

1、3、11、30面に記載あり。

 

1面はまだ客観的記述にとどめようと踏ん張っている様子ですが、3面の社説がひどすぎてゲロ吐きそうです。実家にこんな新聞があったら、家族と縁を切るしかない。

 

トランスジェンダーという言葉を使ったら呪われるかのようにずっと、もはや世界中で使われなくなっている「性同一性障害」の人と繰り返し書き、「男性の体に生まれた」などと表記。身体も生活もとっくに変わっているにもかかわらず戸籍での取り扱いが時代遅れだから今回のような申立が起きているのであって、事態が全然のみこめていない報道のあり方です。30面には滝本太郎の見解。

 
 
 

産経新聞

 

1、2、3、6、23、24面に記載あり。さすが気合いが入ってますね。

 

「社会の不安招かぬ対応を」「混乱は最低限」など、まるでトランスジェンダーがトラブルメーカーのような書きっぷりは平常通り。3面には櫻井よし子「判断に強い違和感と危惧」、6面は「自民内に懸念「困った判決」」、24面の当事者の声には「性同一性障害特例法を守る会」美山みどりさんのコメント「私たちは手術を受けることで社会に受け入れられてきた」と掲載、その偏りを補うかのように鈴木げんさんのコメントも掲載していました。

 

美山さんのような“当事者”の意見には素朴な疑問が湧くのですが、普段から下半身を露出して生活しているのでしょうか?手術をしたかどうかは他人には残念なほど無関係な出来事ですし、むしろ自分としては「やっと手術できた!」と身体の変化に喜びを感じはすれど、その喜びを共有する相手などいなくて寂しい思いをするくらいかと思うのですが。他人の下半身の凹凸や臓器の有無によって、憲法13条や14条が保障されたりされなかったり、って嫌な社会ですよね。「一ヶ月前のあなたは手術をしていなかったので国家は権利を奪うことが正当化されていましたが、今のあなたは手術をしたので認めてあげます」とか言ってくる社会は、丸ごと変わらなければいけません。

 
 

〜おまけ〜

25日は、旧優生保護法下で不妊手術を強いられた人2名が国に損害賠償を求めた訴訟にも、良い結果が出ました。仙台高裁が国側の控訴を棄却し、賠償を命じたそうです。こちらはトランスジェンダーの話題ではありませんが、同じように国に不妊状態を強いられたことへの訴えに対し、裁判所がまっとうな判決を出した日です。

どちらもあまりにも遅すぎましたが、事態がこれ以上悪化しないために司法が機能してほしいです。